ごん狐じゃなかったのね。遺産分割協議は慎重に!


A子さんには2人の男の子がいました。A子さんが2人目の子を妊娠中、A子さんの夫は職場の新入社員を指導中にその女性とのっぴきならない関係となりました。A子さんは2人目の子を産んで間もなく夫と離婚し、2人の男の子の親権者となり、苦労の末、2人の男の子を育てあげました。

成人した2人の男の子はそれぞれ伴侶を見つけてA子さんのもとを巣立っていきました。この頃、A子さんの両親が相次いで他界し、一人娘であったA子さんは両親から莫大な遺産(時価数億円)を相続しました。

さて、二男はB子さんと結婚し、C子さんが生まれたものの、間もなく二男は若くして病でこの世を去り、B子さんは一人でC子さんを育てていくことになりました。

幼いC子さんは、昔話が大好きで、特に「ごん狐」がお気に入りでした。村の人にいたずらばかりしていた小狐の「ごん」。ある日、いたずらによってある村人に取返しのつかないことをしてしまいます。そして、そのことを悔いて栗や松茸をその村人に届けるようになったというお話です。

一方、女癖の悪い長男は、妻から離婚を求められ、さんざんあがいた末に子どもらの親権者を妻と定めて離婚しました。

長男は、二男が亡くなった後、ときどきB子さんの家を訪ねては勝手に冷蔵庫の中のスイーツを食べたり、ふざけてB子さんのお尻を触ったり、くだらないいたずらばかりしていたのでB子さんやC子さんから鬱陶しがられていました。

C子さんが成人して間もなくB子さんが病気で亡くなりました。その翌年にはA子さんが天寿を全うしました。喪主となった長男はA子さんの葬儀や49日の法要の席で人が変わったかのようにC子さんに優しく接しました。

その後、しばらくして、C子さんを訪ねてきた長男は神妙な顔で「弟が生きていれば、弟は母さんの遺産を相続できたのに、亡くなってはそれもかなわない。それではあまりにも不憫なのでC子ちゃんに1000万円をあげるよ。この書面に実印を押しておくれ。」と言って遺産分割協議書と書かれた書面を差し出しました。

C子さんが実印を持っていないと言うと長男はC子さんの手に5万円を握らせて「これで実印を作って印鑑登録をしておくれ。」と言って、遺産分割協議書と書かれた書面を置いて帰っていきました。

あっけにとられたC子さんは「ごん狐の話みたいだ。」と思いました。これまでC子さんやお母さんのB子さんに嫌がらせばかりしていた長男が急に優しくなったからです。

嬉しくなったC子さんは早速ロースクールに通っている恋人に、ごん狐おじさんから1000万円を貰えることを話しました。

ところが予想に反し恋人は血相を変え「C子ちゃん、君は騙されているんだ。君はれっきとした相続人だよ。お婆ちゃんの遺産の半分を相続できるんだよ。絶対、遺産分割協議書に実印を押したら駄目だ!」と強く言い、代襲相続についてわかりやすく説明してくれました。それを聞いたC子さんは「ごん狐じゃなかったのね。」とポツリとつぶやきました。

コメント

故人(被相続人)の子が故人よりも先に亡くなっている場合、故人の子の子(故人の孫)が相続人(代襲相続人)となります。故人の子(既に亡くなっている)の相続分(法定相続分)が2分の1の場合、孫の相続分も2分の1、孫が2人いればそれぞれの相続分は2分の1のさらに2分の1、すなわち4分の1ずつとなります。これを代襲相続といいます。

狡猾な年配の相続人が相続分以上の遺産を掠め取ろうとし、世事に疎い年少の相続人を言葉巧みに言いくるめたり、圧をかけたりして、極めて不公平な内容の遺産分割協議を成立させてしまうことがあります。

相続人全員の実印が押された遺産分割協議書が作成されてしまうと、後でそれを覆すのはほぼ不可能です。

他の相続人が作成した遺産分割協議書を見せられたときは、安易に実印を押すことなく、相続に詳しい人に相談されるのが賢明です。

当センターでは、遺産分割協議書の作成や、相続の話し合いのサポート(ADR)もお手伝いできますので、お困りの方はぜひご相談ください。