今回ご紹介するのは、相続人が先妻の子どもと現在の妻の場合によく起こる問題の一つで、遺産が自宅不動産と多少の金融資産のケースです。このようなケースにおける重要な3つのトピックを踏まえつつご紹介したいと思います。
相続人:先妻との間の子ども、現在の妻(法定相続分は各2分の1)
相続財産:自宅不動産(3,000万円相当)、預貯金1,000万円
3つの解決方法
妻としては、現在の住まいに愛着があります。長年住み慣れた土地で、周囲には、気心の知れた知人もたくさんいます。そのため、夫が死亡した後も、自宅に居住したいと考えています。
自宅を相続するためには、1,000万円の預貯金を先妻の子に取得させた上で、さらに、1,000万円の代償金を支払う必要がでてきます(分割対象の財産総額=不動産+預貯金=4,000万円。法廷相続分で分割した場合、それぞれが2,000万円ずつ相続することになりますが、妻が自宅を相続した場合、自宅の価値は3,000万円のため、余分に受け取った1,000万円分を代償金として支払う必要があります。)。
しかし、そんな大金を用意できない妻としては、次の方法を考えました。
先妻の子や先妻と同居する
これはあまり現実的ではありませんが、先妻の子や先妻に対し、同居を持ち掛けるという方法があります。
例えば、先妻の子や先妻と良好な関係を築いていたり、先妻の子や先妻も現在の住居に不満を持っている場合、「いっそのこと、一緒に住んでしまおう」という提案が考えられます。さらに、先妻の子としても、代償金を支払って、自宅を取得するだけの資力がない場合、同居という方法がより現実的な選択肢として浮上してきます。
しかし、今回は、先妻の子に同居を断られてしまい、この方法をとることはできませんでした。
リバース・モーゲージの利用
次に、妻は、銀行の担当者に相談してみることにしました。そもそも、妻は、遺族厚生年金を受給できず、国民年金以外に収入源がないため、老後の生活資金の乏しさに不安を感じていました。加えて、相続の問題も出てきたため、お金の専門家に聞いてみようと思ったのです。
すると、その担当者の口から、「リバース・モーゲージを利用してはどうですか」との言葉が出てきました。
担当者によると、リバース・モーゲージとは、自宅の資産価値を活用する制度で、相続の代償金や将来の生活資金をねん出できそうでした。妻は、早速、申し込みましたが、結局、要件が厳しく、リバース・モーゲージを利用することはできませんでした(要件を満たせば、調達が可能な場合もあるので、金融機関の窓口で相談することをお勧めします。)。
自宅の売却
結局、妻は、自宅に住み続けることを断念し、先妻の子の了解を得て、自宅不動産を売却することにしました。その結果、たまたま市況もよく、4,000万円で売却契約が成立しました。
居住用財産の特例
妻は、預金と合わせて、2,500万の資金を手にすることになったので、ほっと一息をつくことができました。住み慣れた自宅を手放すことは寂しい限りでしたが、手元にまとまったお金が残ったことで、老後に対する不安も、少しは解消されました。
また、相続税に関しても、妻は、課税を免れることができました。不動産は、売却して譲渡益が出たとしても、居住用財産の特例のため、3,000万円までの譲渡所得には、税金が課せられないからです。
なお、同居していない先妻の子の持分には、相続税が課税される可能性がありますが、この場合、遺産分割協議書により、妻が代償金と引き換えに不動産を全部取得すると合意した上で、その後、売却をすれば、先妻の子には課税されないという方法もあります(この点については、税務署に確認することをお勧めします。)。
本ケースのような紛争は、配偶者居住権制度が2020年4月から導入されることにより、自宅を売却しないで、妻が居住権を取得することで解決できるようになります。
ADRという話合いの方法
このような遺産分割の方法について、当事者間で話し合えればいいのですが、喧嘩になってしまうとか、法的知識がないといった理由で、合意に至らないことがあります。
そんな場合、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てるという方法があります。また、弁護士に依頼することもできます。しかし、家裁での手続きは、費用が安く簡易な一方で、平日にしか時間が取れず、かつ何度も裁判所に出向く必要があるなど手間がかかりますし、弁護士に依頼した場合、多額の報酬を支払うことになります。
そのため、相続人同士での話合いが難しい場合、お勧めしたいのが、ADR(裁判外紛争解決手続き)という手続きです。ADRは、裁判所の一歩手前のような制度で、専門家が当事者の間に入って仲裁をしてくれます。
ADRの制度は、平日の夕方以降や休日に話し合える上、費用的にも負担が少なくてすみます。また、いわゆるADR法に基づき、法務大臣の認証を取得した機関が仲裁にあたるので、信頼性も担保されています。
ADRについては以下のコラムもご参考ください
・ADRとは
・ADRによる遺産分割の仲裁
相続問題が話し合える認証ADR機関は全国にいくつもあるので、法務省のHPよりお住まいの近くの機関を検索していただければと思います。
また、当センターでも相続問題を扱っていますので、ご質問等がございましたら、下記フォームよりお問合せいただければと思います。