今回は、被相続人の生前の財産管理をしていた相続人が、相続開始後、相続税の思わぬ落とし穴にはまってしまったというケースのご紹介です。
生前の財産管理は「きちんと」が鉄則
長女は、実家で一人暮らしをする母のもとへ、毎月のように通っていました。特に、母が体を壊してからは、行く度に2,3泊し、日々の買い物や炊事洗濯を手伝っていました。
そんな生活の中で、自然と長女が母の通帳や印鑑を管理するようになりました。最初は、買い物をするたびにレシートを保管していたり、必要な金額だけを引き出すようにしていました。しかし、段々と、お手伝いの範囲も広くなり、病院関係の費用も高額になってきたため、長女は、毎月数十万円を引き出し、その中から必要なものを支出していました。
母の死亡後の遺産分割
それから数年後、母は、持病が原因で亡くなり、相続が開始しました。
母は、相続に関し、遺言書を残していませんでしたが、特にもめることはありませんでした。
というのも、長男は、長女が献身的に母のお世話をしてくれたことを感謝していましたし、色々な費用を母の財産から支出していたので、争うほどのお金が残っていなかったからです。
そのため、長女が法定相続分を上回る金額を相続する形で決着しました。
相続後に発覚した落とし穴
母の収入は、遺族厚生年金だけでしたので、相続開始後4か月以内の準確定申告も不要ですし、遺産の総額が相続税申告の基礎控除額をギリギリ下回るため、相続開始後10か月以内に義務付けられている相続税申告も不要でした。
預金の払い出しや不動産の所有権移転登記も早々に完了しましたが、半年ほどして、なんと、税務署から相続税の申告の案内が届いたのです。
この案内は、必ずしも申告義務を通知するものではありませんが、実は、長女には思い当たることがあったのです。
それは、母の生前に預金口座から払い出した生活資金のことです。
払い出した預金の額は、預金の取引明細を見る限り、過去5年間で2000万円に上っています。この2,000万円のうち、長女が自分の口座に移動させて使用したものや、そのまま現金で保管したものなどが入り混じっていました。加えて、支払いを説明できる資料もそれほどそろっておらず、2,000万円の大部分が使途不明金となってしまいました。
これを生前の暦年贈与として受け取ったと説明しようとすると、3年以内のものであれば遺産に戻す必要がありますし、それ以前のものなら、1年に110万円までしか非課税限度額が認められません。
長女は、3年以前に毎年100万円から200万円を払い出しているため、贈与として主張しようとすると、まず無申告として課税される可能性が生じるということになってしまいます。
結局、長女は、事の成り行きを正直に申告しました。使途の説明がつかない金額を母からの預かり金として、遺産の目録に追加して申告することにしたのです。
まとめ
この事例の長女のように、通いで介護していたようなときはもちろんですが、同居して面倒を見ていたような場合、どうしても自分と親との財産管理が不明確になってきます。
しかし、この事例では問題になりませんでしたが、ずさんな財産管理は、遺産分割そのものを紛糾させかねません(他の相続人から使い込みを疑われるなど)。
少し面倒かもしれませんが、後で面倒なことにならないよう、財産管理はきちんと資料を残しておきましょう。